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理論で学ぶポーカー#2 : AKQJT9ゲームで数学的に最適なベットサイズ分割を探る考察

理論で学ぶポーカー#2 : AKQJT9ゲームで数学的に最適なベットサイズ分割を探る

はじめに本記事は、前回の記事の続きです。まだ読んでいない方はそちらを先にお読みください。https://pokerqz.com/blog/theoretical_poker_1今回のテーマは「ベットサイズ分割」です。GTOでは一般的に、より強いバリューハンドほど大きいベットサイズを用いる傾向がありますが、それはなぜでしょうか。今回はこの疑問を、トイゲーム「AKQJT9ゲーム」を用いて、数学的な観点から考察していきたいと思います。1. AKQJT9ゲームとは?AKQJT9ゲームは、本テーマを取り上げるために自作したトイゲームで、前回紹介した「AKQゲーム」の派生です。AKQゲームと比較して、カードが3枚から6枚に増えただけですが、一応ルールをおさらいしておきます。プレイヤー本ゲームは、HeroとVillainの2人で行います。カード使用するカードは [As] [Ks] [Qs] [Js] [Ts] [9s] の6枚のみで、それぞれの強さは A > K > Q > J > T > 9 です。各プレイヤーには、これらのうち1枚がランダムに配られ、同じランクのカードが配られることはありません。ポジションHeroは常にIP(インポジション)、Villainは常にOOP(アウトオブポジション) でプレイします。アクションいきなりリバーから始まり、最初にVillain(OOP)が行動します。その際、Villainは常にチェックを選択します。その後、Hero(IP)は、任意のベットサイズを選択するか、チェックバックをすることができます。 2でHeroがチェックバックの場合、そのままショーダウンとなります。 2でHeroがベットした場合、Villainはコールまたはフォールドの2択のみとなり、レイズはできません。ポットサイズ初期ポットは1です。2. アルゴリズムで計算されたGTO解それではこのゲームの最適解を数式で計算していきたいのですが、イメージを掴みやすくするため、CFRアルゴリズムを用いて計算されたGTO解を見てみましょう。(CFRアルゴリズムの詳しい話にも、また機会があったら触れたいです)図1 リバーにおける、ボードが[2s][2h][2d][3s][3h]の時のGTO解図1は、筆者が独自に構築したツールにてGTO解を図示したものです。レンジ表はGTO Wizard風に仕上げました。この表は、実際のポーカーにおいてボードが[2s][2h][2d][3s][3h](つまり今回のA~9とは直接的に関係のないボード)で、VillainからCheckされた後のHeroのレンジ全体の戦略を示しています。ただし、お互いのハンドレンジは[As][Ah],[Ks][Kh],...[9s][9h]の6コンボに限定しています(ポケットペアはスペード・ハートのコンボのみ使用)。この時ハンドの強さは[As][Ah] > [Ks][Kh] > ... > [9s][9h]で、互いが同じハンドを持つことは無いので、この状況はAKQJT9ゲームと等価です。今回は15%から160%まで、様々なベットサイズのオプションを用意しました。赤色は大ベット、オレンジは小ベット、緑はチェックを示します。ナッツのAの方がセカンドナッツのKよりもバリューベットのサイズが大きく、サイズ分割が行われていることが分かります。図2 図1における [Ks][Kh]の戦略(左列が頻度、右列がEV。EVは100倍にして表示)図3 図1における [As][Ah]の戦略(左列が頻度、右列がEV。EVは100倍にして表示)また、図2・図3は、ハンドが[Ks][Kh]・[As][Ah]の時に使う戦略を詳細に示しています。それぞれのハンドでEVを最大化させるベットサイズを用いるのが最善で、EVが大きい値のアクション頻度が大きいことが分かります。図1から図3を見て、AKQJT9ゲームについて分かることをまとめると、以下のようになります。《ここまでのまとめ》ナッツのAは、ピュアに大ベットを用いる。最適なサイズは120%から130%の間の、やや120%寄りの当たりにありそう。セカンドナッツのKは、ピュアに小ベットを用いる。最適なサイズは25%から30%の間の、やや30%寄りの当たりにありそう。マージナルハンドのQからTは、ピュアにチェックする。最弱の9は、AとKのそれぞれのバリューベットで用いるサイズを兼用して、適切な頻度でブラフベットする。※補足Qはバリューベットを打つことができません。もしQでベットすると、相手はA・Kを確実にコールし、9を確実にフォールドします。すると、相手がJ・Tを全頻度でブラフキャッチコールしたとしても、コールされた後のエクイティが50%となってしまい、バリューベットとして機能していないことが分かります。Tはブラフベットすることはありません。ブラフは、必要コンボ数的に9だけで十分だからです(後述)。3. ベットサイズを任意の2つのサイズとしたAKQJT9ゲームの最適解さて、ここからは数学的な考察に入っていきましょう。このゲームにはサイズ分割があるので、Aで使うバリューベットのサイズを$b_{A}$、Kで使うバリューベットのサイズを$b_{K}$として考えます。前回の記事より、ある強いハンドをピュアにサイズ$b$でバリューベットするとき、相手のマージナルハンドをコールとフォールドのインディファレントにするブラフベット頻度は$\frac{b}{1+b}$でした。今回は用いるベットサイズが2種類あるため、Heroの最適な戦略は以下のようになります。Heroの戦略Hero(IP) の手札bet $b_{A}$ の頻度bet $b_{K}$ の頻度checkの頻度A100K010Q , J , T0019$\frac{b_{A}}{1+b_{A}}$$\frac{b_{K}}{1+b_{K}}$$1 - \frac{b_{A}}{1+b_{A}} -\frac{b_{K}}{1+b_{K}}$この戦略に対して、Villainは以下のように応答します。ここでは一旦、bet $b_{A}$に対するマージナルハンド(KからT)のブラフキャッチ頻度を$f_{1}$、bet $b_{K}$に対するマージナルハンド(QからT)のブラフキャッチ頻度を$f_{2}$と置きます。(具体的な値はこれから計算します。)Heroのbet $b_{A}$に対するVillainの戦略Villainの手札callの頻度foldの頻度A (1コンボ)10K , Q , J , T (4コンボ)$f_{1}$$1 - f_{1}$9 (1コンボ)01Heroのbet $b_{K}$に対するVillainの戦略Villainの手札callの頻度foldの頻度A , K (2コンボ)10Q , J , T (3コンボ)$f_{2}$$1 - f_{2}$9 (1コンボ)01ここで前回の記事より、Villainの最適なブラフキャッチ頻度は、Heroの弱いハンドがブラフベットするか諦めチェックするかのインディファレントになるような頻度でした。すなわち(Heroの9のbet $b_{A}$のEV) = (Heroの9のbet $b_{K}$のEV) = (Heroの9のcheckのEV)となればいいので、以下の式が成り立ちます。$$\frac{1 ・ (-b_{A}) + 4f_1 ・(-b_{A}) + 4(1-f_1) ・1 }{5} = \frac{2 ・ (-b_{K}) + 3f_2 ・(-b_{K}) + 3(1-f_2) ・1 }{5} = 0$$これを解いて$f_1 = \frac{4-b_{A}}{4(1 + b_{A})}$, $f_2 = \frac{3-2b_{K}}{3(1 + b_{K})}$となります。また、$1 - f_1 = \frac{5b_{A}}{4(1 + b_{A})}$, $1 - f_2 = \frac{5b_{K}}{3(1 + b_{K})}$となります。(後で使います)4. Heroのレンジ全体のEVを最大化させる$b_{A} , b_{K}$は?お互いの最適戦略が分かったところで、Heroのレンジ全体のEVを最大化させる$b_{A} , b_{K}$を求めましょう。前回の記事で、マージナルハンドと弱いハンドのEVは、Heroのベットサイズに依存しないことに触れました。よって最適な$b_{A} , b_{K}$は、A・K(バリューハンド)それぞれのEVを考えれば求まることになります。それでは実際にA・KのEVを計算しましょう。AのEVは前回のように計算できますが、KのEVについては注意点があります。それは、Kは相手のAに対してミスバリューを打ってしまう可能性があることです。それに注意して、HeroのAのEVを$E_{A}(b_{A})$、HeroのKのEVを$E_{K}(b_{K})$とすると、$$E_{A}(b_{A}) = \frac{4f_1・(1 + b_{A}) + (4(1-f_1) + 1)・1}{5} = \frac{1}{5} ((4-b_{A}) + \frac{5b_{A}}{1 + b_{A}} + 1) = \frac{1}{5} (5 + \frac{5b_{A}}{1 + b_{A}} - b_{A})$$$$E_{K}(b_{K}) = \frac{1・(-b_{K}) + 3f_2・(1 + b_{K}) + (3(1-f_2) + 1)・1}{5} = \frac{1}{5} (-b_{K} + (3-2b_{K}) + \frac{5b_{K}}{1 + b_{K}} + 1) = \frac{1}{5} (4 + \frac{5b_{K}}{1 + b_{K}} - 3b_{K})$$となります。$E_{A}(b_{A})$を最大にする$b_{A}$と$E_{K}(b_{K})$を最大にする$b_{K}$を、関数を微分してそれぞれ求めましょう。高校の数IIIで習う分数関数の微分公式を用いると、$$\frac{d}{db_{A}} E_{A}(b_{A}) = \frac{1}{(1 + b_{A} )^2} - \frac{1}{5}$$$$\frac{d}{db_{K}} E_{K}(b_{K}) = \frac{1}{(1 + b_{K} )^2} - \frac{3}{5}$$となります。$\frac{d}{db_{A}} E_{A}(b_{A})$と$\frac{d}{db_{K}} E_{K}(b_{K})$は、共に単調減少な関数なので、これらが0となるような$b_{A}$,$b_{K}$が最適なベットサイズです。これを解いて$b_{A} =\sqrt{5} -1 \approx 1.236$ , $b_{K} = \sqrt{\frac{5}{3}} -1 \approx 0.291$ となります。これが意味することは、Heroの最適なベットサイズは、Aの時がPot 123.6%、Kの時がPot 29.1%だということです。先ほどアルゴリズムの結果から、ナッツのAは、ピュアに大ベットを用いる。最適なサイズは120%から130%の間の、やや120%寄りの当たりにありそう。セカンドナッツのKは、ピュアに小ベットを用いる。最適なサイズは25%から30%の間の、やや30%寄りの当たりにありそう。と予想を立てましたが、見事にその通りになっていることが分かります。また、この時9のブラフベットの頻度は、Pot 123.6%が $\frac{b_{A}}{1 +b_{A}} \approx \frac{1.236}{1 + 1.236} \approx 0.553$Pot 29.1%が $\frac{b_{K}}{1 +b_{K}} \approx \frac{0.291}{1 + 0.291} \approx 0.225$となり、両方合わせても1を超えません。つまり、ブラフコンボは9だけで十分なので、Tまでブラフに回す必要はない、ということです。5. 実践でベットサイズ分割を行う際の注意ここまで、ベットサイズ分割が自身のレンジのEVを底上げする話をしてきました。しかし、これを本当のポーカーで実践する際には注意が必要です。このゲームでは、Villainにレイズ権がありませんでしたが、実際のポーカーではレイズされることがあります。安ベットのレンジにナッツクラスのハンドが一切含まれない場合、相手にそれがバレると、エクスプロイトで幅広くポラライズされたレイズを返されてしまいます。そうなると自身のレンジのEVは大きく下がってしまいます。よって、相手がレイズを適切に返せる上手なプレイヤーである場合、ナッツクラスのハンドを、一部安ベットに入れてバランスを取ります(特にOOPの場合)。まとめ今回も難易度の高い記事になってしまいましたが、ここまでお読みいただきありがとうございます。本記事では、GTOの行うベットサイズ分割が、数学的な裏付けを持つ効果的なプレーであることを説明しました。結論を簡潔に要約すると以下のようになります。ベットサイズ分割を行う場合、より強いバリューハンドほど大きいベットサイズを用いるとEVが上昇する。ブラフハンドはEQの低い弱いハンドから選定し、各ベットサイズごとに適切な頻度でブラフをする(実践では、ブロッカーの良いハンドほど大きいブラフベットを選択する傾向あり。今回のゲームではブロッカーは無かった)。実践では相手にレイズ権があるため、ベットサイズ分割をするにしても、ある程度ナッツクラスのハンドを分散させてエクスプロイトされることを防ぐ必要がある。

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理論で学ぶポーカー#1 : AKQゲームで数学的に最適なバリューベットのサイズを探る考察

理論で学ぶポーカー#1 : AKQゲームで数学的に最適なバリューベットのサイズを探る

1. はじめにポーカーにおいて、バリューベットの適切なサイズを決めることは、期待値(EV)を最大化する上で非常に重要です。本記事では、シンプルな AKQ ゲームを題材に、バリューハンドの最適なベットサイズについて深掘りしていきます。2. AKQゲームとは?AKQゲームは、ポーカー戦略の基礎を学ぶために設計されたシンプルなモデルゲームです。さまざまなバリエーションがありますが、ここでは以下のルールに基づいて説明します。プレイヤー本ゲームは、Hero(自分側)とVillain(相手側)の2人で行います。カード使用するカードは [As], [Ks], [Qs] の3枚のみで、それぞれの強さは A > K > Q です。各プレイヤーには、これらのうち1枚がランダムに配られ、同じランクのカードが配られることはありません(スートも無視しましょう)。ポジションHeroは常にIP(インポジション)、Villainは常にOOP(アウトオブポジション) でプレイします。アクションいきなりリバーから始まり、最初にVillain(OOP)が行動します。その際、Villainは常にチェックを選択します。その後、Hero(IP)は、任意のベットサイズを選択する or チェックバックができます。2でHeroがチェックバックの場合、そのままショーダウンとなります。2でHeroがベットした場合、Villainはコール or フォールドの2択のみとなりレイズはできません。ポットサイズ初期ポットは1ですこのシンプルなゲームモデルを通じて、ポーカーにおけるベット戦略やレンジの考え方を学ぶことができます。3. 各手札ごとの戦略構築と純粋戦略まず、Hero・Villainごとに、各手札の最適な立ち回りをまとめます。Heroの最適な立ち回り① [As] 最強の手札のため、相手のKをターゲットに必ずバリューベットを打つ。② [Ks] Aには絶対コールされて負け、Qには降りられるだけなので、ベットすると損をする。必ずチェックする。③ [Qs] 最弱の手札だが、こちらのAのバリューベットと混ぜて、相手のKがちょうど悩むくらいの頻度でブラフベットを打つ。Heroにベットされた後の、Villainの最適な立ち回り④ [As]絶対に勝っているので、必ずコールする。⑤ [Ks]相手のAには負けているが、相手のQのブラフに降ろされすぎないように、適切な頻度でブラフキャッチする。(相手のQが、ブラフするかちょうど悩むくらいの頻度でコールする)⑥ [Qs]絶対に負けているので、必ずフォールドする。ここで、①・③・④・⑥は「必ず」とついている通り、最適なアクションが最初から決まっていて、100%の頻度でそのアクションを実行します。それ以外のアクションを選ぶと、上述の通り明確に損するからです。このように、アクション頻度が100%の戦略を「純粋戦略」と言います。この純粋戦略を間違えてしまうと、非常に大きなEVロスとなってしまうため、注意が必要です。さて、純粋戦略は変更のしようがないので、このゲームの最適解を考える上で重要なのは、③の「HeroのQのブラフ頻度」と、⑤の「VillainのKのコール頻度」です。③・⑤は、それぞれのアクションをどちらもバランスよく行うことが最適で、このような戦略を「混合戦略」と呼びます。もし適切なバランスを取らず、アクションが一方に偏ってしまうと、相手から戦略のエクスプロイトを受けることになります。以下で、そのエクスプロイトを具体的に説明します。③に関しては、HeroのQのベット頻度が高すぎるとブラフ過多となり、VillainはKのブラフキャッチコール頻度を100%にするというエクスプロイトを行います。逆にHeroのQのベット頻度が低すぎるとAのバリュー過多となり、VillainはKのブラフキャッチコール頻度を0%にするというエクスプロイトを行います。⑤に関しては、VillainのKのコール頻度が高すぎるとブラフキャッチ過多となり、HeroはQのブラフベット頻度を0%にするというエクスプロイトを行います。逆にVillainのKのコール頻度が低すぎるとブラフキャッチ過小となり、HeroはQのブラフベット頻度を100%にするというエクスプロイトを行います。それでは、③・⑤の適切な頻度は具体的にどう求めれば良いのでしょうか。次のセクションで説明します。4. 混合戦略の頻度とインディファレント混合戦略の最適な頻度を探るには、上の③・⑤の文章に出てきた「相手の〇〇をちょうど悩ませる」という言葉の正確な意味合いに言及する必要があります。ここで出てくるのが「インディファレント」という用語です。インディファレントとは、ある手札において、複数のアクション間でEVが等しくなっている状態のことです。これだけだと分かりにくいので、具体例を示します。例えば、ポットが100点の状態で、相手から100点のポットベットを受けたとしましょう。そうすると、コールに必要な金額は100点で、コールするとポットが100(ポット)+100(相手のベット)+100(自分のコール)=300点になります。すなわち、100点を支払って300点を得る勝負を仕掛けられているので、100/300 = 1/3がちょうど勝率となっている時、コールとフォールドの期待値が0で等しくなります。この状況を「コールとフォールドのインディファレント」と言います。一般的にインディファレントな状態にあるハンドは、バランスを取るために、それら複数のアクションが選択肢として残る傾向にあります。そして今回、③と⑤の混合戦略の内訳を決めるカギは、相手の特定のハンドがインディファレントになるように頻度を調整することです。具体的には、③HeroのQ は、villainのKが「コールとフォールドのインディファレント」になるベット頻度に調整します。⑤VillainのK は、HeroのQが「ベットとチェックのインディファレント」になるコール頻度に調整します。5. ベットサイズをPot 50%のみに限定したAKQゲームの最適解分かりやすさのために、このセクションでは、Heroのベットサイズをポット50%(0.5)に限定して考えてみます。《Heroの戦略》Heroは、Aを全頻度(1)でバリューベットし、Qを最適な頻度($f_Q$)でブラフベットし、相手のKのコールとフォールドの期待値が同じになるような戦略を取ります。VillainのKはコールした場合、以下のような利得になります。HeroがA(1コンボ) ... -0.5(コールに使った0.5を失う)HeroがQ($f_Q$コンボ) ... 1 + 0.5 (ポットの1と相手のベット額0.5を得る)そして、VillainのKはフォールドした場合、所持チップは増えも減りもしないので、利得は0となります。(Kのコール期待値) = (Kのフォールド期待値)より、これを数式で表すと、$$\frac{1 ・ (-0.5) +f_Q ・(1 + 0.5)}{1+f_Q} = 0$$ となります。これを解いて$f_Q =\frac{1}{3} $です。《Villainの戦略》一方Villainは、Kを最適な頻度($f_K$)でコールし、相手のQのベットとチェックの期待値が同じになるような戦略を取ります。HeroのQはベットした場合、以下のような利得になります。VillainがA(1コンボ) ... -0.5(コールされて負け)VillainがKでコール($f_K$コンボ) ... -0.5(コールされて負け)VillainがKでフォールド($1 - f_K$コンボ) .. 1(降ろしてポットの1を得る)そして、HeroのQはチェックした場合、絶対にショーダウンで負け、所持チップは増えも減りもしないので、利得は0となります。(Qのベット期待値) = (Qのチェック期待値)より、これを数式で表すと、$$\frac{1 ・ (-0.5) +f_K ・(-0.5) + (1-f_K) ・1 }{2} = 0$$ となります。これを解いて$f_K =\frac{1}{3} $です。以上をまとめて、HeroとVillainの最適戦略を整理すると以下のようになります。Heroの戦略Heroの手札Pot 50%の頻度checkの頻度A1 (100%)0 (0%)K0 (0%)1 (100%)Q0.3333 (33.33%)0.6667 (66.67%)Villainの戦略(Heroのbet 0.5 に対して)Villainの手札callの頻度foldの頻度A1 (100%)0 (0%)K0.3333 (33.33%)0.6667 (66.67%)Q0 (0%)1 (100%)6. ベットサイズを任意の1つのサイズ(b)としたAKQゲームの最適解全セクションでは、ベットサイズを0.5に限定して最適解を考えました。それと全く同様にして、ベットサイズをb(定数)とした最適解も考えることができます。先ほどの2式の0.5をbに置き換えると、$$\frac{1 ・ (-b) +f_Q ・(1 + b)}{1+f_Q} = 0$$ $$\frac{1 ・ (-b) + f_K ・(-b) + (1-f_K) ・1 }{2} = 0$$ です。これを解くと$f_Q = \frac{b}{1+b}$ , $f_K = \frac{1-b}{1+b}$ となります。以上をまとめて、HeroとVillainの最適戦略を整理すると以下のようになります。Heroの戦略Heroの手札bet $b$ の頻度checkの頻度A10K01Q$\frac{b}{1+b}$$\frac{1}{1+b}$Villainの戦略(Heroのbet $b$に対して)Villainの手札callの頻度foldの頻度A10K$\frac{1-b}{1+b}$$\frac{2b}{1+b}$Q01ここで$f_K = \frac{1-b}{1+b}$に注目すると、bが1より大きい時(Heroがポットオーバーのベットを打つ時)、$f_K$は負の値となり、おかしなことが起きることがわかります。これはどういうことでしょうか。一般にポットオーバーベットのブラフは、必要ブラフ成功率が50%を超えます。HeroがQでブラフする時、VillainはAかKを持っています。しかし、VillainはAを絶対に降りないため、ブラフ成功率が50%を超えることはあり得ません。すなわち、HeroはAKQゲームにおいてポットオーバーベットのブラフをするべきではない、という結論が導かれます。ブラフが存在しないのであれば当然バリューベットもそのサイズでは出来ないため、Heroはこのゲームでポットオーバーベットは用いることはありません。よって、以下では$0 < b \leq 1$として考えます。7. レンジ全体のEVを最大化させるHeroのベットサイズは?ここまでで、ベットサイズが任意の1つのサイズ(b)の時の最適解がわかりました。ここからが本題です。実はHeroのK・Qの期待値(EV)は、ベットサイズ(b)によらず変化しません。なぜなら、HeroのK...必ずチェックし、ショーダウンでAに負けてQに勝つので、50%の確率で1のポットを獲得。すなわちEVは常に0.5HeroのQ...相手のKのコール頻度により、ブラフベットと諦めチェックのインディファレント状態であるから、EVは常に0となるからです。すなわちベットサイズによりEVが変化するのはAの時だけで、Heroの最適なベットサイズとは、HeroがAを持っている際のEVを最大化させる額であることになります。では、ベットサイズがbの時の、HeroのAのベットEVを実際に計算してみましょう。$$(HeroのAのEV) = (コールされる確率)・(1+b) + (フォールドされる確率)・1$$コールされる確率は、相手がKを持っていて($\frac{1}{2}$)、かつコールを選択する($\frac{1-b}{1+b}$)時なので、その積で$\frac{1}{2}\frac{1-b}{1+b}$です。これを$P(b)$とおくと、$$(HeroのAのEV) = P(b)・(1+b) + (1-P(b))・1 = bP(b) + 1 = \frac{1}{2}\frac{b(1-b)}{1+b} +1$$となります。定数部を除けば、$\frac{b(1-b)}{1+b}$が最大となるbを求めれば良いのです。$$\frac{b(1-b)}{1+b} = \frac{-b(1+b) + 2(1+b) -2 }{1+b} = 2 -(b+ \frac{2}{1+b}) = 3 -((1+b) + \frac{2}{1+b})$$となるため、相加・相乗平均の関係より、 $1+b = \sqrt{2}$、すなわち$b = \sqrt{2} -1 \approx 0.414$ の時に$\frac{b(1-b)}{1+b}$は最大値$3-2\sqrt{2}$を取ります。これが意味することは、Heroの最適なベットサイズは、AのEVを最大化させるPot 41.4%だということです。ポーカーのことを考えていたはずなのに、なぜかベットサイズにルートが出てきました。不思議ですね。また、今求めた最大値を元の式に代入すると、$$(HeroのAのEVの最大値) = \frac{1}{2} ・(3-2\sqrt{2}) +1 = \frac{5}{2} - \sqrt{2} \approx 1.086$$となります。ベットができなければAのEVは1となるので、HeroがIPであることが、ちゃんとレンジ全体のEV上昇に貢献していると考えることができますね。8. まとめ難易度の高い長い記事になってしまいましたが、ここまでお読みいただきありがとうございます。本記事では、Heroのベットサイズが期待値(EV)に与える影響について考察しました。結論を簡潔に要約すると以下のようになります。AKQゲームは簡略化されたポーカーで、これを詳しく考察することで、実践のポーカーで用いる様々な理論を習得できる。バリューハンドには、相手からレイズされない条件下において、EVを最大化する最適なベットサイズが存在する。AKQゲームの分析を通じて、ポーカーにおけるベットサイズの選択とGTO(Game Theory Optimal)戦略の考え方を深く理解することができます。次の記事では、より複雑な状況下でのベットサイズの最適化や、実戦での応用方法について考察していきます。https://pokerqz.com/blog/theoretical_poker_2

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